招かれざる訪問者 ページ24
朝方から降り始めた雨は凜として冷たく、重暗い街並みにポツポツと橙の光が入る頃にはほぼ霰の粒と化していた。つい今し方ビッグベンの鐘の音が夜も盛りの時刻を告げたものの、真冬じみた天候の悪さも手伝ってか道に人影はまばらである。当然ながら一日中訪れる者もなかったベーカー街の下宿兼事務所の窓には淡々と――まるで壊れたピアノの鍵盤を誰かが叩き続けているような――物憂げな音が滲んでいた。
探偵シャーロック・ホームズは退屈しきってカウチに寝そべり、藍色のクッションを枕代わりにとりとめのない夢の中へ沈んでいた。もう火種さえ消えかけた暖炉の方へ投げ出された長い足には、天井から一筋の銀糸を引いて舞い落ちた小蜘蛛が巣作りを試みていた。
シャーロックが重い瞼を開けたのは、事務所の扉の軋み、そして時限的にも訪れるはずがない訪問者の足音を聞き取ったからだった。
唸りながら身を起こそうとすれば、ふいに氷のように冷え切った指先で襟の中をまさぐられ、肩口を押さえられる。優しく、強く、上体がまたカウチに倒れ込むまで。そして髪をぐしゃぐしゃと掻き回される。
訪問者の正体はとうに誰それと勘付いていたが、その下心ある図々しい手つき以上に勘を確信に変えるものはなかった。今やはっきりと眠りから覚めたシャーロックは溜息を一つ吐き、その手を払った。
「人の頭をベタベタ触るな、馬鹿ロビン」
暖炉の僅かな火が、窓から差し込む街灯の灯が、シャーロックの上にかがみ込むその
「いいじゃないか頭ぐらい。減るもんじゃないし君は女の子じゃないし」
男にしては高い声がクスクスという笑いと共に紅唇から零れる。
「第一声が文句なんてがっかりだね、二週間ぶりなのに。普通は『元気だった?』と聞くところなんだよ」
「元気も何もお前は死んでいるだろう」
名はロビン。正しくはロバート・ハンチンドン伯。
言動はまるで少年のそれだが、彼は齢二百を超えるヴァンパイアである。太陽の光を恐れるが故に日中は郊外の霊廟に引っ込み、豪奢な棺に身を納めているが、日没後には人の生き血を求めて街に現れる変わった
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シャーロック(プロフ) - Riruriさん» うわ〜!嬉しいお言葉を本当にありがとうございます!お待ちしておりますのでぜひよろしくお願いします!感謝しております! (11月26日 0時) (レス) id: 37fed7f1d4 (このIDを非表示/違反報告)
Riruri - ネット販売おめでとうございます…!生憎金欠なので、お小遣い入ったら光の速さで購入させていただきます。本当は今すぐにでも欲しいですが……無念。これからもシャーロック様としての活動、カイマナふぁみりー様としての活動共に陰ながら応援しています! (11月24日 16時) (レス) id: fa82e694ee (このIDを非表示/違反報告)
シャーロック(プロフ) - Riruriさん» お返事遅くなってすみません!実は数日前から私が脳梗塞なんじゃないかって家族と大騒ぎしていて、とても余裕がなかったんです(汗)ハロウィン短編を喜んで頂けてとても嬉しいです。敵対関係にないのに互いに踏み切れない二人。歯痒いけれどもそれがいい! (10月15日 22時) (レス) id: 37fed7f1d4 (このIDを非表示/違反報告)
Riruri - 別世界線の二人も中身はそのままなのに設定が違うだけでここまで関係性も変わっていくのかと驚きましたし、それと同時により二人のことが大好きになりました💞素敵な作品を読ませてくださり本当に有難うございます!!読みにくい長文コメント失礼致しました💦 (10月11日 14時) (レス) id: 7e45e119a7 (このIDを非表示/違反報告)
Riruri - ハロウィン編、物凄く素敵です…!!新たな設定の二人と知り、どうなるのかとワクワクしながら読み進めていきましたが、そのワクワクを遥かに上回る程の面白さ、“尊さ”でさっきから溜め息が止まりません笑 物語の進め方、まとめ方も凄く美しくてただただ尊敬です…… (10月11日 13時) (レス) @page35 id: 7e45e119a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:シャーロック | 作者ホームページ:https://kaimanafamily.wixsite.com/welcome-to-sanctuary
作成日時:2022年11月14日 17時