検索窓
今日:3 hit、昨日:4 hit、合計:16,753 hit

ミツバチの飼育ガイド ページ17

「これは、何だ! 説明しろ、アルタモント!」
「……見てお分かりになりませんか。実用養蜂便覧(ミツバチの飼育ガイド)です」

 深夜零時のドイツ・ハンブルク。ストームさなかのビルの最上階。
 とあるテロ組織の首謀者ボルクは、テーブルの上の重要書類や小切手の海に横たわる、小さな青い本を前にして、「貴様……」と言ったきり、声も出ぬほど怒り狂っていた。


 人を食ったような題名もそうだが、何よりもこの本を「先日ご注文頂いたものです」と言って持って来た情報屋・アルタモントの態度だ。
 長身痩躯、黒づくめの服の彼は、四方八方から銃を突きつけられているのにも関わらず、優雅に椅子の上で足を組み、煙草をくゆらせ、頬には笑みさえ浮かべている。ボルクの怒号に揺らぐ様子は微塵もない。そのふてぶてしさはいっそ不気味とも言える。


「お気に召しませんか」
「当たり前だ、ふざけるな!」ボルクは言った。
「我々がお前に注文したのは、中央情報局(CIA)連邦捜査局(FBI)のアクセスコードや重要ファイルのリストだったはずだ!」
「ええ、確かにそう承りました」
「なら、何故だ! 我々を馬鹿にしているのかね?」
「いいえ。ただ(わたくし)は、そこらの情報屋とは違いましてね。
ご注文の先の先までを読むこと……つまり、お客様の真のご要望やご信条に沿った働きをするということを、誇りにしているのですよ」


 端正なアルタモントの顔は、薄暗闇の中に不思議なほど、くっきりと青白く浮かび上がって見えた。


「ボルク様は先日、『この世界に真の平和をもたらすため、この命を捧げたい』と仰ったではありませんか。
もちろんそれに加えて、『まずは諸悪の根源であるアメリカの強大な権力を奪って、世界を制圧しなければ』と、仰ったことも忘れてはいませんが、何より私は、ボルク様のその平和への願いを叶えて差し上げたく、この本をお持ちしたのです。
ハトの本でも良かったのですが、ボルク様はこの国でお生まれになったのですから、きっとアインシュタインの有名な……彼が言ったのではないという説もありますが……あの言葉をご存じだろうと、それからひらめきまして」
「アインシュタインの言葉だと?」
「“ミツバチが絶滅すれば、四年後に人類が滅びる”という言葉です」


 ボルクは呆れかえった。

青い瞳の美女→←まえがき



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (37 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
11人がお気に入り
設定タグ:シャーロック , オリジナルBL , 腐女子   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

シャーロック(プロフ) - Riruriさん» うわ〜!嬉しいお言葉を本当にありがとうございます!お待ちしておりますのでぜひよろしくお願いします!感謝しております! (11月26日 0時) (レス) id: 37fed7f1d4 (このIDを非表示/違反報告)
Riruri - ネット販売おめでとうございます…!生憎金欠なので、お小遣い入ったら光の速さで購入させていただきます。本当は今すぐにでも欲しいですが……無念。これからもシャーロック様としての活動、カイマナふぁみりー様としての活動共に陰ながら応援しています! (11月24日 16時) (レス) id: fa82e694ee (このIDを非表示/違反報告)
シャーロック(プロフ) - Riruriさん» お返事遅くなってすみません!実は数日前から私が脳梗塞なんじゃないかって家族と大騒ぎしていて、とても余裕がなかったんです(汗)ハロウィン短編を喜んで頂けてとても嬉しいです。敵対関係にないのに互いに踏み切れない二人。歯痒いけれどもそれがいい! (10月15日 22時) (レス) id: 37fed7f1d4 (このIDを非表示/違反報告)
Riruri - 別世界線の二人も中身はそのままなのに設定が違うだけでここまで関係性も変わっていくのかと驚きましたし、それと同時により二人のことが大好きになりました💞素敵な作品を読ませてくださり本当に有難うございます!!読みにくい長文コメント失礼致しました💦 (10月11日 14時) (レス) id: 7e45e119a7 (このIDを非表示/違反報告)
Riruri - ハロウィン編、物凄く素敵です…!!新たな設定の二人と知り、どうなるのかとワクワクしながら読み進めていきましたが、そのワクワクを遥かに上回る程の面白さ、“尊さ”でさっきから溜め息が止まりません笑 物語の進め方、まとめ方も凄く美しくてただただ尊敬です…… (10月11日 13時) (レス) @page35 id: 7e45e119a7 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:シャーロック | 作者ホームページ:https://kaimanafamily.wixsite.com/welcome-to-sanctuary  
作成日時:2022年11月14日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。